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窓側にベッドがある為かカーテンからの日差しで静雄は目が覚め、眠い瞼を擦りながら体を横に向けた。今日は仕事が無く休暇な日で、朝早くから夜遅くまで取り立てを続ける日々だ。苦と言う訳ではないが睡眠不足なのは薄々感じていたし、何よりも起きてすぐ二度寝しようとするのだから体は悲鳴をあげているのであろう。目を閉じていると布団では無い布と感触と柔らかい肌の感覚に、静雄は勢い良く目を見開いた。
そして、言葉を失った。
昨日はいつも通り自分の家に帰っていつも通り風呂に入りいつも通りベッドに入った筈だ。しかし目の前にいるのは黒髪の長い女性で、もしかして自分はお酒を飲んで女と遂げてしまったのだろうか。静雄は流れ出る冷や汗を感じながら、その女性を見つめた。黒髪の艶やかな髪と細く長い睫毛、ピンク色の唇と白い肌。静雄は言うまでも無く見惚れていた。そんな静雄を横目に気がついたのか薄っすらと目を開けて、静雄を見た瞬間柔らかい笑顔で笑う。「おはよう、静雄さん」その言葉に静雄に眩暈と高揚が降り注いだ。女性はピンク色のキャミソールを揺らしながら、ベッドから離れると慣れた手つきで台所に向かう。今だ現実が分からない静雄にポッドを持ちながら「コーヒー飲みます?」と問い掛けると、静雄は顔を赤くした。
出されたコーヒーを一口含み静雄は目の前の女性をまじまじと眺めた。細身で少し目は吊り目だがおしとやかな印象を仕草から受ける。だが、それと同時に良く分からないのも渦巻いていた。何故彼女がここにいるのか疑問はそればかりだ。「あんた、どうやって入ったんだよ」そう言った瞬間女性は顔を赤くして「そんな、言わせないで下さいっ」と顔を背ける。静雄は等々嫌な汗が流れ出るのと頭が痛くなるのを感じていた。「あ、そうそう静雄さん。昨日、今日が休みだって言ってたじゃないですか。何処か出掛けません?」と悠々と言って見せた。しかし指をくるくると回す仕草は誰かと似ていた。
「えぇ、静雄さん、それはないですよ」デパートの一角の食器コーナーで、静雄が手に取ったコップに女性は眉を下げた。「そうか?かっけえと思うけど」静雄が手に持っているのは、所謂子供向けの恐竜が描かれたものだ。対して女性はモノクロの形が綺麗な物を選んでいる。(モノクロ・・・?)
「あんた、服とか見ねえのか」「服・・・あんまり興味無いんですよ」「・・・・?」所々不自然な女性は服よりも生活必需品を重視しているらしい。だが今時の女性が服では無く包丁やナイフの類に興味を示すだろうか。静雄は一か八かで問い掛けてみた。「なあ、アンタ、もしかしてカタギだな」そう言うと女性は一度静雄を見てにこりと笑った。「そうですよ、」そう言うと静雄に背を向ける。肩が揺れているがここからでは泣いているのかどうかも分からなかった。
馬鹿だ!臨也は笑いを堪える為に口に手を当てた。涙が出てしまいそうになるのを必死に抑え歩くが、その足取りも覚束ない。
臨也は今から一日と数時間前に、新羅の父である森厳が開発した女になる薬を飲んだ。勿論静雄を陥れる為に森厳と何度も研究を繰り返し、やっとの思いで一日と数時間前に完成したのだった。そうして長年温めて来た殺害方法を計画し静雄の布団に潜り込む。女性には弱いのだと思うと笑いと喜びと怒りが同時に湧き上がった。「泣いてんのか」静雄が横に立っている事に気付かず、体をびくりと震わせた。笑いを堪える為に涙は溜まり顔は赤く紅潮している。「すまねえ、嫌だったんだろカタギだって言われるの」静雄に今度こそ臨也は心中で馬鹿だ!と言った。
「なあ、あんたの名前は?」「・・・・今日は楽しかったよ、シズちゃん。君がこんなに女性に甘いとは思わなかったな」「は・・・・?」「分かるでしょ?俺の大大大大大大だーいっきらいなシズちゃん」「てめえ、臨也か!!!」「そうだよ、ああでも今は女だからシズちゃんは手をあげられるのかなぁ?」「っ」「ねえねえよく見てシズちゃんを殺す為に俺女になったんだよ?」「るせえ、」「今のシズちゃんは面白くないねえ、じゃあ今日はこれでお開きね」
臨也が群衆に呑まれていく様を終始見た後、静雄はその場に崩れ込んだ。
―――――何で可愛いって思ってんだ、俺。
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