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シズイザ


輝くネオンのステージのその先にはマイクを持ち得意のダンスを披露する端整な顔立ちの青年。そして―――――会場を埋め尽す程の、熱気。


静雄が彼に出会ったのは会社の女性後輩からのお薦めだった。後輩はテレビに映る彼がとても好きらしく、彼の性格や人柄に加え出で立ちなど、ファンならではの情報力で静雄は少し些細な興味を持ったのだ。CDを借りると無機質な音が均一のリズムで繰り広がる、所謂テクノポップと言う音楽だった。今まで聴いて来た音楽とは掛け離れて違う為最後まで聞くのには苦労がいる。エフェクトで編集された声は歌詞が聞きづらい所も多々あったが、それでも中毒性のある一度聴いたら離れないリズムに心を奪われていき、それからテレビで歌う彼に自然に目が行くようになった。アイドル事務所から出た訳でもない彼の美貌は次々と女性を魅了して行く。黒髪の短い髪を揺らしながら少し吊り目ががった瞳は、興味がある物を魅了するような確かな目力があり吸い込まれるような感覚を一度や二度覚えたりと、いつの間にか静雄は彼のファンになっていた。
その美貌と、平均男性にしては高い声を生かした突き抜けるような声量、素晴らしい程歌が上手とは言われないがそれでも爽やかな声色に人気は上がって行った。そしてテレビ番組に出演する時の礼儀正しさや頭の良さに静雄はどんどん溺れ、CDを買うのは勿論の事コンサートに行く事等ファンとしての自覚を持ってきた頃、見渡す限り女性ばかりの彼のファンがどんどんと男も増えて行っている事に気がついた。圧倒的に女性の方が多いが、それでも前に比べて男性を見るようになって少しもやもやとした感情に、首を横に振る。男性ファンが増える事は嬉しいはずだというのに静雄は素直に喜ぶ事が出来ず、テレビの中で笑っている雲の上の存在の彼に恋をしてしまった。


彼はステージで激しいダンスを踊り笑顔を張り付けたまま一曲を終えて、柔らかそうな髪を揺らしながら額の汗を拭き取って挨拶をするその姿が、やけに遠くに見える。一般人と芸能人の差はここにあるのかと悲しくなって眉を下げていると、前を通り抜いた彼がこちらを見て目を見開き悲しそうな表情をほんの一瞬だけ見せた。それはドラマで培われてきた演技なのか、タイミング良く流れていた失恋ソングに感情移入したのか分からなかったが、彼が悲しんでいると言う事実だけが関係無い自分に責任があるような気がした。このころから、彼はミスが多くなったと聞く。



人気歌謡に今日は彼が出るから録画ボタンを押してソファに座った。机に置かれているお茶を一口含みスタンバイをすると、煌びやかなライトが歌手たちの登場を祝っている。彼が出て来ると一際女性の声が強まった。白い柔らかそうなファーの付いた生地に所々鮮やかなピンクが施されてあるコートは彼に良く似合う。少し気になったのは色白の彼がいつも以上に具合が悪そうに見える事だった。白を通り越して青が強いような気もする。彼の出番が来ると彼は先程とは打って変わり楽しそうに歌いだす。ハンドマイクを手に持ちながら踊り始める彼に静雄は目を奪われて、息をするのも忘れていたのかもしれない。カメラワークが少し目に付いたがそれでも彼の現在の様子を見れて内心静雄はほっと撫で降ろした。

憎まれていると愛されているは少し違うがそれでも静雄は彼の気持ちが欲しかった。だから今もこうして、彼の愛を感じる為にここにいる。静雄はコップを手に取りお茶飲み干すとテレビの電源を消した。どうせ自分の家でも録画しているし後でじっくりと見ればいい。ソファで横になりながら静雄は想いに深けている。




一つ問題があるとするならば、




この場所が『彼』の家であることだった。

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