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門田家の前途多難な日常 3


双子っていう運命共同体をさ、便利だって思ってはいない。


当たり前だ。風邪を引くのも熱が出るのも全部同じ時。少しずれることはあっても一緒に小学校を休む、というのは同じで、母さんが大変だなぁと布団に潜りながら考えた事がある。人より生意気な俺はさ、千景が何やっても怒られるように俺は何度も何度も言葉が悪いと怒られた。少し皮肉屋な俺は相手を苛立たせることを口走る。で、そんなこんなで小学校の時嫌われてるのが分かり始めて。人気者の千景の片割れだからって表面上仲良くしてもらってただけだ。俺は表現力が乏しいわけではないけど相手の欠点を吐いてしまうその言い方は、いろんな人にも嫌われる要点だったのかもしれない。不思議と女子達には囲まれていたけど、嫌われる度に少なくなっていく。寂しい、とは感じたことはない。千景が居たらそれで俺は十分だった。
「なぁ、臨也。お前、ひとりぼっちで寂しくないの」
そう千景言われた時俺は今まで溜めていた何かこぼれる音が耳に届く。
ああ、泣きそう。
その考えに至った時ぼろぼろと透明な涙がこぼれ、千景の驚いた顔を見て俺も驚いた。涙は止まらなくて声をあげてしまいそうになるのを歯を食いしばって出さないようにする。千景は困った顔をしたが次には優しく微笑んでポケットからハンカチを取り出すと、はいどうぞと聞こえそうな顔で俺の目の前にハンカチを差し出した。
千景をうらやましい、と思ったことは何度もある。気持ちを素直に言えるところだとかそういった自分に持っていないものを持っている千景が羨ましく思えて。俺はこの時とうとう声をあげたのである。



俺が欲しいものは、ゲームでも物でもなく「人間」という一つのモノ。興味を持ったのは本やテレビでなのかもしれないが俺は人間が欲しかった。欲しくて堪らないのだ。無理だと理解しても人間に基づく全ての根本が好きで好きで堪らない。その事を兄さんに言うと不思議そうな顔をしたが、その時点で俺は理解して貰えないと分かっていた。俺が可笑しいのは知っているし、それでいいと思っている。今も変わらない。けど小さい頃の俺は人とは違うことが妙に怖く、兄さんに聞いた時はびくびくと声を震わせていた。
「お前はすげぇの考えてんな。いいんじゃねぇか、人間が欲しいってのも。ちょっと心配だけどよ」
そう言いながら俺の髪を撫でると兄さんはに、と効果音が付き添うな顔をして目を細めた。自分の事を理解してくれた。理解した上で可笑しなことじゃないと言ってくれた。小さい頃の俺はその言葉が嬉しくて、家族の優先順位に誰よりも一番上は兄さんというのが脳に書き込こまれていく。
だから母さんや父さんが海外に行く事になって俺は別に気にしなかった。兄さんが居てくれればいいのだ、流石に兄さんが一緒に行くとなったら泣いたかもしれない。


中学生になって、自分の目線はどんどん変わってきた。子供の様な我儘も言わないようになったしそれは両親が海外に行っても変わらなかったが、自分と相手の考え方が掴めるようになって人一倍努力したけど今だ人間は手の内には入って来ない。俺は人間が好き。愛してる。それでも家族はもっと好きだし、家族は自分の世界の中心である。恥ずかしくて皆には言えないけど。思春期を迎えて千景が恋をしても俺は特定の人を好きになれた事がない。そんなこんなで中学をエンジョイしていた俺に、隣のクラスの強靭な力を持った男を見つけた。真昼間の屋上でサボるとは、言い身分だなと毒吐く。すると男は顔を赤くして屋上の、策を、掴み、外した。
バキリバキリと、音が、する。

どういうことだ、なんだよ、なんだよこいつは。俺が知ってる「人間」じゃない!可笑しい。可笑しい!

俺は絶望に叩きこまれた気がした。それは今思うと最悪の出会いでこれが人生を棒に振る――――平和島静雄との出会いだった。
平和島静雄が嫌いだ。でも千景はあいつは性格いいぞと言ってきたが、良いどころではない。最悪だ!有り得ない。こんな人間が居て堪るか!そう怒鳴ると千景は笑って、でもあれでも人間なんだよと返してきた。そんなの知らないんだ!あいつが人間ではない事は俺が身に持って体験したんだから。むかつく。むかつく。人一倍捻くれてる俺は平和島静雄の出会いで酷く捻くれた。螺子が曲がる処ではないぐらい、それ以上に捻くれていく。



「ドタチンー」
「・・・お前なぁ、それお前にも言える事だぞ」
「いやそれはない。ないない」
「おい!」




中学に入ってから面白い友達も増えたし、よく千景とは喧嘩するようになったけどお互い反抗期なんだから仕方ないと割り切って。
人間の厭な所も見て来た。けど、俺は人間が好きだ。もちろん家族よりは下だけどね。



門田家の前途多難な日常 3

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