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双子の俺等は、ちっちゃい頃どっちが兄なのかを競い合った時期があった。母ちゃんによると最初に生まれたのが臨也で俺、千景は弟なのだそうだ。もし俺の方が早く生まれていれば俺が兄ちゃん宣言を出せたかもしんないのに。くそう、神様って不公平だ。
俺と臨也は二卵性の双子で、顔や声は似ていないものの身体の作りは殆ど同じであった。身長も体重も走る速さも全部、同じ。俺はそれが嬉しかったし周りに対する優越感も多少、ほんとちょぴっとだけあるんだけど。でもまぁ、臨也は兄として面白くないらしく勉強で勝つしか無かったらしい。小学生5年の頃、俺が国語のテストが65点の時臨也は100点を取った。酷く寂しくて、俺は臨也が羨ましかった。やっぱりそん時は悔しかったんだろうな。落ち込んでるそんな時、兄ちゃんが来てくれて「お前はテスト何点なんだ?」と聞いてきた。俺は声が震えて出なくて、必死に言葉を紡いだ。
「俺、臨也みたいに頭良くねぇし、臨也みたいに100点なんてめったに取れねぇ」
「おいおい、千景。誰にだって出来ねぇ事の一つや二つあるもんだぜ。お前が勉強できなくても誰も怒りはしねぇよ。お前が出来て臨也だって出来ないこともあんだからよ」
「でも兄ちゃん、俺、本当、点低いぜ・・?」
「いいよんなもん。気にしねぇ。うし、プリント貸してみろ」
俺は恥ずかしながら、テストプリントを後ろ向きで渡す。兄ちゃんは遠慮なく表に向けた、右上の数字を見て口を開けた。
「おお、65点!上出来じゃねぇか」
そう言って俺の頭をわしゃわしゃと撫でてくれて、俺は涙腺が潤んだ。
今となっては笑って言える話だけどよ、俺、あん時の言葉忘れたことねぇよ。
「千景、またフラれたんだねぇ。これで何度目?」
「うっせー。臨也の方がいいってフラれた俺の気持ちにもなってみろぃ」
俺はちっちゃい頃から女の人が大好きでそれは中学生になって今でも、大人になっても変わらないと思う。
中学生になって好きな人が出来、俺は勇気を振り絞って告白した。まあ見事に玉砕しまして、しかも臨也の方が好きだなんて酷い。確かに臨也は頭もいいし運動も出来るよ?それは認める。でも俺だって頭はちょっといいし運動はばりばり出来るんだけど!もう!
臨也は笑いながら俺の背中を摩る。どんまい、と小さく聞こえてきた。
「あの子、お前中一の時から好きだったよね、なんか、ごめん」
「・・・! いいよ、振られたなら仕方ねぇしさ、彼女のことはあきらめた」
「でも、千景」
「過ぎ去った過去は仕方ない!・・・・いやでもお前に女は近づかせねぇ!おう!」
と俺が親指を立てて横に振り向くと臨也はずささと1、2歩下がっていて。顔は少し引き気味な様子で臨也はぼそりと呟く。
「ごめん・・・俺そんな趣味じゃない・・」
そう言った臨也は俺の部屋から飛び出して行った。俺はその時ようやく理解できて泣き腫らした顔を真っ赤にさせて、瞬間身体から熱が奪われた。
「おおお、俺だってそんな趣味じゃない!!!!!!」
悲痛な叫びだったよ。まさか自分が男色扱いを、しかも人生の傍らにだぜ。流石に臨也を追いかけて言葉の誤解を解くのには時間が掛かりました。そりゃあもう。
俺がまだ名ばかりの糞餓鬼だった頃、小さな小さな命が新しい妹として産まれてきた。俺の手の大きさとは比べ物にならないその小っちゃさに俺は母ちゃんから言われた、お兄ちゃんという言葉が妙に自分の奥深くに浸透していく。兄ちゃんは平然として母ちゃんを労わってたけど、それでもなんかむず痒くて慣れない。そんなのが吹き飛んだのは杏里が誰を最初に呼ぶか、ということだけだった。母ちゃんも父ちゃんも兄ちゃんも臨也も全員目を輝かせて自分の名前を連呼していて。俺もそりゃあ超張り切って自分の名前を言っていた。でも、杏里が言ったのは
「にぃちゃ、」
という舌足らずな声で。それは母さんが俺らを叱るときにお兄ちゃんでしょ、という言葉なのかと最初思っていたが、どうやら俺が兄ちゃんに言う「兄ちゃん」と言う言葉だったらしい。嬉しくなって、ようやく俺はお兄ちゃんと言う言葉がずしずしと感じるようになった。それを居心地は悪いなんてとんでもない!
俺が中学一年生になって、本当に最近よく考えるようになったことがあんの。まぁつまんねぇ話だけどさ、母ちゃんが父ちゃんと一緒に海外に行って本当にひしひしと伝わってきたことが一つ。
俺、この家に生まれてよかった。そう思う。これからもずっとね。
門田家の前途多難な日常 2
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