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俺の両親は兄弟四人や生活を支える父も母も共働きをしている。そしてつい先月それなりの地位に就いていた親は海外赴任となり、転勤されてしまった。親は俺達のこともあって反対したらしいのだがどうやら上の命令だそうで反抗も出来ないまま、飛行機に乗っていく。前日にはあの子たちを頼むわね、とまだ高校二年生の俺に弟達を託して去って行った。生活費と家の家賃は銀行に振り込んでくれるらしく、親が居なくなって生活が変わるというのはない。そう確信した。
しかし、いつも通りの日常は遅れはしなかった。当たり前だ、弟達の面倒をみるということは出来ない料理や家事を覚えるので忙しい。母の有難味を痛感したときである。8歳の妹は小学校からいち早く帰ってくるため俺は部活動を止め、休日時間が空いたら知り合いの人に料理を教えてもらい、弟や妹の勉強を見るのが日の最後の仕事であった。
高校二年生の俺はいいとしても小学生、況してや幼稚園の弟達に耐えられるのであろうか。親が居ない事実に。
案の定、一番下の子である長女杏里は母が居なくなってからいつも双子と一緒に寝ているのだが今日は俺のところへやってきた。泣くのを必死に我慢して涙で目をうるうるとさせている。まま、ぱぱと舌足らずの声で呟く杏里に俺は一緒に寝ようと誘うと杏里はこくんと頷いて布団に入っていく。杏里が落ち着くまで俺はずっと手をつないで、時々呟かれる会いたいという声に泣きはしなかったものの胸を締め付けられるような痛みに襲われた。
双子の弟達は妙に大人びていて親が居なくても寂しくないといつも悪戯をしている。
臨也は頭が良くてずる賢く、千景は女性好きで悪知恵が働き二人はこの家のトラブルメーカー的存在である。人一倍の捻くれ者の二人は仲が良かったし、喧嘩することはごく稀であった。ただ、この二人が学校で問題を起こしたらしく俺は保護者として杏里と一緒に小学校へ向っていく。
―――――同級生の男の子を殴り飛ばしたらしい。俺は頭を抱えて相手の親に謝罪のため頭を下げた。俺が頭を下げるたび視界の隅で落ち込んでいる二人が帰り道でも心にちらついていた。
「お前ら、なんで殴ったんだ?」
少し疑問に思ったことを口に出して見ると二人はぎょっとして顔をして顔を見合わせぽつりぽつりと呟いた。
「だってよ、兄ちゃん」
「あいつが兄さんの事悪く言ったんだ」
「だから俺らかってなって」
そう呟いていく二人を抱きしめて、温かくなっていく目尻を必死に押さえる。
「ありがとう」
―――その後臨也は空手、千景は柔道を習い始めて一段と喧嘩っ早くなってしまった。
俺は高校生三年生になった。料理や家事はもう慣れはれて中学生になった弟も徐々に手伝ってくれるようになった。一生懸命絵を描く杏里は幼稚園を卒業して小学一年生ながらちょっとずつ上達している。
親が時々俺達を心配して電話をしてくるが、俺は正直この状況が楽しい。渋々と引き受けた弟達の面倒をみるということは、今となっては親との会話が「任せろ」という一言で成立し、それは当たり前のように感じる。
この家族の長男でよかった。
もっと言うと、弟や妹がこいつらでよかった。
門田家の前途多難な日常 1
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