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忍足は、存外、嫌な気分でもなくだからと言って上機嫌な訳でもないが、居心地がいいとは他人事のように頭の中に湧き上がってくる。学生寮は他の部屋の作りとは全く変わらないし、結構家賃はするものの全く不自由のない部屋だ。窓側にベッドがあり、テレビはベッドから覗けるような至近距離に設置して、その床には日差しで黄ばんだ小説と漫画が高々と主張してくる。そろそろ換気せなな、と立て掛けられているカレンダーを見て思う。寮生活でプライベートを守るためだうんぬんと大家が言って一人部屋にさせてもらったと言うのに、部活をして帰ったらくたくたになりご飯さえ手付かずの事が頻繁にあるのだ。掃除なんて、二週間に一回出来ればいいものだった。
「あかん、埃っぽい」
喉につっかえる埃を感じて小さく、ごほ、と咳き込みながらベッドに乗り込んだ。そうして、窓を開く為ホックに手を掛ける。がら、と音を立てて、気持ちいい風が部屋に吹き抜けて行く。残念ながら、窓は此処しか無いため、プライベートもくそもなにが、ドアを開けなければならない。往復に嫌気が指しながらベッドから足を出して、冷蔵庫の前にある硝子板の机の脚を奥に蹴飛ばし扉を開けようとドアノブを握る。その時だった。押す為にのしかけていた体重が扉が勢いよく引かれてしまい、そのまま重力に逆らう事無く前のめりに倒れかける。すると、運よく腕を伸ばしてくれたのか地面と接触する事無く、安堵の息をもらしながら顔を上げた。
「びっくりするやろ!何してくれとんじゃ!・・・って跡部やん・・・」
「あん?つか、ってんめー、いきなり倒れるからいつになく吃驚したじゃねえか」
跡部は忍足を受け止めた後軽く腕をあげると、態勢を断ち直した忍足は恨めしそうに跡部を見る。あとちょっとで自分は地面と仲良くキスする事になってしまったのだ。跡部そんな様子を気にする事も無くつかつかと靴を脱いで忍足の部屋に入った。
「って自分、何の用事なん?跡部の家からこの寮って結構距離あるやろ?」
「親が客を接待してるんだよ。俺にとってはどうでもいい中小企業だから、相手にする必要もないと思って抜けだして来た」
「・・そうけ」
忍足は、跡部が言う中小企業がそこそこの、自分がおこぼれに与っている商品の会社だと言う事を知っている。そして、「そんな奴食ってんのか馬鹿じゃねぇの」と鼻で嗤われるのも知っている。忍足は溜息を吐くと、窮屈そうに体を動かした跡部を見る。
「跡部な、今から掃除すんねん。やからどっかフラついてるのがええと思うんやけど」
「いつ俺が掃除しないって言ったんだよ」
「はあ!?え、すんの!?掃除した事絶対ないやろ跡部!むしろそんな跡部見とうないわ!」
「やかましい」と言いながら跡部は忍足の頭を叩き、欠伸をして口を開けた後、小さく咳をした。忍足は心配そうに跡部を一瞥してから、冷蔵庫に歩み寄る。そして、横の縦に狭く横に長い小さな棚の引き出しから、青いゴミ袋を取り出して、ばさ、と大きな音を立てながら広げる。跡部はそう言えば部室の掃除もしてなかったなと頭の端で考えながら忍足の腕を摘まんだ。
「っ痛っだ!」
「るせえ、お前、マスクねえのか。ゴム手袋とか」
「ええから摘まんでる手離せや!」
跡部は渋々手を離すと、忍足はゴミ袋を離して腕を摩った。対して身長も変わらない跡部の目を瞠り、「んなもんないわ」と渋る。すると跡部は嫌そうな顔をして口元を引き攣らせた。
「てめえ、汚れるだろうが」
「そんなん金持ちが言う事やろ。金持ちと違ってー贅沢言わないんですぅーって痛っ!」
「ッチ」
舌打ちをしながら忍足の腕を曲げる。忍足は先が長くなりそうやと罰の悪い顔をした。
三時間。たったこの部屋を掃除するだけで掛かった時間。日は傾きかけている。忍足はげっそりとしたまま、ソファもねえのかと悪態を吐く跡部を見遣る。この男は、埃の塊を見るだけで目を丸くするわ、ゲームのメモリーカードを掃除機で吸いやがるわ、虫を見れば忍足に駆除しろと命令するわ、おぼっちゃまと言うのを目の当たりにした忍足は優雅にコーヒー飲みやがって、と舌打ちをする。その音が気に食わなかったのか、振り返った跡部は無表情で忍足の手首を掴んだ。
「なにすんねん」
「そういや、恋人見てえなことしてなかったな」
「阿呆か、どっかのおぼっちゃまの所為でくたくたやわ、扱き使いよって!贅沢にベッドに座りよるし、吉本新喜劇も見れへんし、なんやねっんっ!?」
ばふ、と干してしまって布団の影も無いベッドに、半ば投げ入れるように忍足を押し倒した跡部は、上に乗っかりしてやったりという顔をする。
「言うたやろ、こちとら疲れてんねん!さっさと離れぇ・・・って、自分どこ触っとる、んや!」
「ぎゃーぎゃーうるせえ」
跡部は騒ぐ忍足の口を手で覆いながら、空いた方の手でTシャツの上から腰を触る。忍足は眉を顰めて喋ろうと口を開くが、跡部が分かる様な言語はしていない。鼻で笑うと、Tシャツをへその近くまで捲る。その時、べろ、と手に感触がして眉を寄せる。
「てめえ」
「ほんま疲れとんねん、止めんか。つか重いんじゃさっさとどけド阿呆」
「・・・色気ねえな」
跡部は渋々忍足から体を離すと、Tシャツを下げながら起き上りすぐに溜息を吐く。
「いいじゃねえかよ、久しぶりだろうが」
「んな事言うてもな、窓は開いとうし、壁も薄いねん。ヤるならそら跡部の家の方がええやろ」
「スリルある方が燃えるもんじゃねえの?」
「俺は無理や、無理。萎える。知りもせん人さまに気ぃ使って萎える。お気の毒やーって。跡部も下でぎゃあぎゃあ言って萎えてたら嫌やん?そういうこっちゃ」
「俺は別にお前の評価が下がろうが別に良いけどな」
自分勝手め!この自己中!そう言い浴びせながら、忍足は不貞腐れた跡部を見て笑う。跡部はその笑みを見て忍足の後頭部を掴む。
「ん?」
跡部は上着を脱いで、地球がひっくり返りそうなぐらい爽やかな笑みを作りながら上着で忍足の口を塞ぎながらベッドに押し付ける。目を見開かせて手を離そうと跡部の手首を掴むが、態勢が態勢にの為に力が出ない忍足は、跡部の劣情な目を見て顔を蒼白とさせた。
「考えたんだがよ、お前がでっかく喘がなければ良い話だろ」
にた、と厭らしく笑った跡部は、気の抜けた瞬きをする忍足に布越しにキスをした。
かみさまの殉職
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