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なにしてんの。
酷く可愛い発音で、見下ろすように、木の下に寝転ぶ俺を見据えた円堂が、ゆっくりと笑顔を見せて行く。
夢はそこで終わった。咽返るように咳をしながら起き上ると、無機質なベッドのスプリングがギシと悲鳴を上げる。上半身を動かせば、不安定なリズムでスプリングが汚い音楽を奏でる。
肩から落ちる長い髪を鬱陶しそうにした豪炎寺は、うっすらと、覚醒していく視界と意識を感じて目を擦った。高い物だけが、まるで一つの芸術を築く様に飾られたこの部屋は、豪炎寺の目にはただの屑を纏めたガラクタの部屋に見える。豪炎寺は数回瞬きをして、先程みた眩しい記憶を振り払うかのように、ベッドから足を出した。
「・・・・っ」
何時からだろう。こうして、夢に翻弄されるのは。断片を見る様に、あの頃の記憶が夢に出て現れる。
豪炎寺はゆっくりと立ち上がり、自分の服装を確認した。Tシャツとジーンズ。ラフな格好だが、豪炎寺はそれさえも可笑しくて仕方が無い。こんな姿を部下の前で晒せば笑い者になるだろう。「あの」フィフスセクターの「あの」聖帝が、と色々と言葉を引き合いに出されるだろう。
豪炎寺は部下の贈り物を飾ってある食器棚にある、金色の縁で如何にも高級品だと分かるコップを手に取った。キラキラと太陽のように、眩しいそれは、今の豪炎寺にはとても輝いて見える。月夜の晩に、月の光だけで照らされたそのコップは、崩れ堕ちる様に、床と接触して大きな音を立てた。
この床も。この絨毯も。此処にある全ての物が、煩わしくて、癪に障る。
「なにしてんの。今日は滅茶苦茶良い天気で、サッカー日和なのに寝るなんて勿体ねぇぞー」
「そっ・・か、俺は寝てたんだな」
円堂は俺に手を差し出すと、ほら、と行って世界を絶対敵に回さない笑顔を見せる。その手をとって立ち上がって、熱を帯びた風が木々を揺らして、カッターシャツが靡く。
「豪炎寺はさ、高校でもサッカーする?」
「当たり前だろ」
「でもさ、もし、サッカー続けられないとしたら?」
その時円堂は、進路に悩んでいたのかもしれないと、俺は後々気付く事になったが、俺は、揺れる木の影を感じながら、円堂と空を見上げた。
「続けられないなら・・・、そうだな、それでもサッカーの関係する仕事には、なるんじゃないか」
「そっか」
円堂は安心したように胸を撫で下ろすと、俺は続けるかな、とはにかんだ。高校は同じところにしような、と二人で約束を交わして部活に行く為にグラウンドを走る。
約束は守れなかった。
白みを増した空と昇った太陽の眩しさから、ゆっくりと目を開け、起き上がる。床には散らばったコップが無残に取り残されていた。
「そうか・・・俺は眠ってたのか」
いつベットに腰を降ろしたのか分からなかったが、体がだるい分結構の時間眠っていたのだろう。
部屋にある時計を確認すると、十時を回って、いつもなら書類検査をしている時間帯なので、部下が寝かせてくれたのであろう。
「もうこんな時間か」
豪炎寺は部屋にある、フロントと繋がる受話器を取り耳元に翳す様に置く。奥でプルルと一定のリズムで紡がれていく音楽は、たった一コールで幕を閉じたが。
『御用件を伺います。聖帝の御用件を』
「用なんて物じゃない、長い時間眠らせてもらって苦労をかけただろう。すぐにフロントに向かう」
『今日はよろしいですよ。各々きちんと仕事をこなしております。聖帝、最近お休みにならなかったでしょう。部下共々と心配しておりますので、今日は休暇を取って下さい』
「しかし」
『肝心な時に聖帝が倒れられては、胃が破裂してしまいますよ。・・・お休みください』
「・・・分かった。礼を言う」
『ではすぐに朝食を御出ししに行きます』
そう言って切れた電話に、豪炎寺の口元は一瞬綻んだ。良い部下を持ったと少なからず自慢げに思ったのだ。先程電話したのは側近の男だが、これがまた大層な頑固爺で、豪炎寺でさえ手出し出来ない頭の回転と口の上手さを持っている。豪炎寺はベッドに座ろうとしたが、眉を微動させて目を瞑る。
今眠ってしまえば、また夢を見る。とても目映く、目が眩んでしまう夢を。
豪炎寺は、ロッカーに立て掛けられた、頑固爺が選んだワインレッドの服と手に取って、無造作にベッドに置いた。この服装ではこっ酷く説教されてしまいそうだからだ。
熱い日差しが何メートルもある窓ガラスから溢れだして、豪炎寺はゆっくりとそこに目を向ける。
先程よりは、まだ光を見詰められる。豪炎寺は眉を下げて久しぶりに小さく笑った。表情筋は上手く働いてくれなかったが、それでも良いと思えた。
11.10.21 如月
修也=聖帝でもいいけど、聖帝が修也のクローンで修也が監禁されてても萌えるよねっていう。
意外と部下に愛されてればいいなと思った結果がこれだよ!
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