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りくく


今思えば、酒の席に使ったバーで、運命的な出会いをするなんて誰が想像しただろうか。否、誰も想像しなかったというのに、こうして、目の前に運命の人が居るのは、幾分厄介な事の様に思えた。現実問題、先程資料に目を通して印を押していた筈だったのだが。「長官、こいつです」部下のやけに冷めた様な声が、部屋中に響き渡った。「こいつ、金が無いからって人さまの鞄を奪いやがったんです」部下は蔑む視線を送って、黒い革靴で男の膝を軽く蹴った。「へえ」臨也は楽しそうに、金色の髪をしている男を見て、持っていた警棒で顎を支え、上に振り向かせる。酷く泣きそうな顔をしていて、しかしそこには反省の色は見えない。「弟が、弟がいるんです、まだ幼くてッ、親はとっくの昔に死んじまって、俺が支えないといけねえのに、俺の稼ぎなんてこれっぽっちで、ぐッァ!」部下が男の頬を手で叩いた」ことで、男は床に倒れ伏すように押し付けられていた。「あんた、口の聞き方がなっちゃいねえな、この方を誰だと思ってやがる」部下を一瞥しつつ、臨也は目を細めてその男を見る。バーでは酷くやつれているように思っていたが、今はそれ以上だ。やつれていると言うよりは、痩せこけている。臨也は楽しそうに唇を吊り上げて、その男の足を踏む部下を蹴り飛ばした。「ッちょうかんっ!?」「まず、ここは警察じゃないんだからお前は俺に告げ口しなくてもいい。あと、あんた、平和島静雄、気に入ったよ。育てがいがありそうだ」臨也は静雄に手を伸ばして、こう言い放った。

「世界を平和にしてみないか?」



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「相変わらず化け物って言いたくなるね、シズちゃん」臨也は人が五六人地面に寝転がって気を失っているところを、拍手しながら見ていた。あれから、平和島静雄は化け物のように才能を発揮した。(とは言っても、人を殴る才能だけしかない)臨也は高みの見物を止めて、すっかり顔色も良くなった静雄を見詰める。「シズちゃん、言いたい事がある」「なんだ・・・?」臨也は他愛も無い会話に笑みを零しつつ、静雄を突き放す様な、淡々としている声で言った。「もうそろそろ俺は軍を止める」「・・・・は、なんだ、それ、っ」「うーん、考えてたんだけどね、もう潮時かなって。時代も、町も、国も、どんどん良くなっている。シズちゃんは、好きに、自由に生きてみて。俺を守るのを生きがいにするのは、止めな」「臨也、おい、臨也、」臨也は軽く手を振ると、古くなり茶色じみているそのコートを翻した。呆然と立ち尽くす静雄は、ただその凛とした背中を見て名前を呼ぶ事しか出来
ず、歯を噛み締めた。そして、大きく足を一歩踏み出し、全体重を掛けて臨也に向かって走り出す。


恋に恋してるなよ、と、青空が嫌味を言った気がした。



11.10.10 如月

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