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りく


先刻から鳴り止まない臨也の胸の鼓動は、疼いたり治まったりと忙しなく動きそれと同じように臨也自身動かずにはいられなかった。臨也の予想にしなかったのは勿論、静雄が自分を助けた事にある。前々から互いは殺し合いをしていたし、静雄に至っては殺すと何度も口にしてきた筈だというのに、咄嗟に臨也を助けたという事が握り締められた背中の感触が消えないように、臨也の脳にも消えない跡を残した。いつもなら鳥肌を立たせて吐くなりなんなりしそうだが、死に直面したと言う他人には自慢できないその瞬間に静雄に抱き締められると言うのは案外嫌ではなかったのだ。助けられた時、誰よりも呆けていたのは臨也だが突き飛ばして、そのまま勢い良く階段を下りていき、肩を揺らしながら自分のマンションに向かった。思い出しながら臨也は溜息を吐いて、この嫌な感情を消そうとベッドに倒れ込む。



朝、臨也はすっと目が覚めてコーヒーを飲もうと立ち上がった時、目覚めると同じように昨日の出来事を思い出してまたベッドに勢い良くうつ伏せになり、顔の熱を冷やす様に冷えた布団に顔を埋めた。(シズちゃんなんか、嫌いだ)と悪態を吐いて、顔を叩き仕事をする為に先程逃したティータイムに手を付ける。結局、あの男は自分に不幸を齎したのだ。

「ねえ、あなた何がやりたいの?」

朝の出来事の一部始終を聞いて目を細めながら、波江は臨也の机に書類を置いた。今は丁度昼過ぎの事務所であるが、臨也は積み上げられた資料に判子やサインを押すだけの事を、それはそれは時間を掛けてしかも間違えていると言う目も当てられない始末に、波江はとうとう痺れを切らして苛立ち交じりの声を出した。臨也は「なにって・・・仕事?」と言うと、波江は「馬鹿を言わないで」と荒々しく机を叩く。「今日の貴方は可笑しいわ、まるで恋でもしたみたいね」波江の一言に、臨也の瞳が大きく開かれた。「え?」「ん?」まさか図星、と波江が小首を傾げると臨也は固まったまま生唾を飲み込んだ。「うそ、」


 ・
  ・

夕方に、臨也は町をブラついていた。時折射るような殺気の籠った視線を感じるがいつも感じているから特には何も思わないが、後ろから行き成り口元を押さえられた。臨也はナイフを取り出そうとポケットを探ろうとするが、相手は複数らしい。手元を両側から抑えられそのまま池袋の闇に引き込むように、人通りの全くない路地裏へと入れこまれる。「なァ臨也さんよぉ。今日は隙あり過ぎじゃねぇかぁ?」下品な笑いが路地裏へと響き臨也は自分は殺されるのだろうと、相手側が取り出した包丁のような形のぎらつくナイフを見ながら思う。「お前にさあ、俺の友人がお世話になってよお!そのお礼だ」臨也は振り上げられたナイフに目を勢いよく瞑った。振り下ろされるまで見えた男の足元はもう見えない。おかしいなと思い顔をあげると、そこには一番気になり一番見たくない男の姿だ。「シズ・・ちゃん」臨也は自分を捕まえたチンピラ達が持ち上げられている事など目もくれず、たた静雄の姿だけを見つめていた。「平和島ァ!!!なんでお前が折原のッッ」そういったチンピラの言葉は紡がれる事は無く、路地裏に死体の様に動かない男たちが数人崩れ込んだ。「なんで・・・」静雄は静かに首を横に振って、それ以上はなにも言うな、と去って行く。臨也はその後ろ姿を見ながら今度こそ、この想いを自覚した。


滑稽だな、と叶う事のない恋に夢を見ている女の様だ、と静かにその場に崩れ堕ちた。

人生山あり谷あり。今どちらかと言えば、谷だ。

恋は障害が多い方が燃える

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