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シズイザ


少しでも指に触れようものなら高速で臨也は手を引いた。心底嫌だという顔で眉を顰めながら、動揺を隠せず歩くペースは徐々に速くなる。静雄はその様子を横目で見ながら拳を強く握ると、次には優しそうに目を細める。夜遅くの東京・池袋は昼間と違い静寂に埋もれているが、家やビルを見ると明かりは照らしている。夜更かしをするすべての人間は今この時間に出るとは思わない。けれど、臨也は世間から批判を浴びる事を酷く怖がった。それもそのはず、臨也と静雄は学生で、兄弟なのだ。

二人は血の繋がった兄弟だったが、小さいころから似ていないと言われ続けていた。弟の方が背が高いのもありいつも兄だと間違われ、兄も華奢なので弟と間違われていた。礼儀正しい二人は近所からの評判も良く親からの信頼も厚い。けれど、どこで間違ったのか、二人は恋をした。惹かれあうように溶かし合うように混じり合うように、兄弟では起りえぬ愛がその間に生まれたのだ。お互い好きで仕方のないというのに、どこか臆病な兄は道を手をつないで歩いて行くことを嫌がった。世間の目が怖いのだ。「シズ、駄目だ。今、もし人が歩いてたら」「大丈夫、今の時間は歩いている人なんていねえよ」「でも、電灯の近くを歩いたら見える」「じゃあ灯りがない裏道を歩こう」静雄は臨也の一歩手前に出ると裏道に向かって歩き出し、二人は影に覆われそこでやっと兄弟ではなく恋人として隣に立つ。「家帰ったら、何する?」「ココアを飲む」「ココア、俺コーヒーがいいな」「じゃあ俺もコーヒーでいい」「じゃあ前に買っ、」臨也は言い掛けていた言葉を最後まで紡がず、静雄と固く繋いでいた手を振り払った。男性が目の前を通り過ぎてちらとこちらを見たがすぐに前を向いた。静雄は「大丈夫、もう誰もいねえ」と臨也を安心させるように優しく言う。臨也はごめんね、と眉を下げて「前に買ったお揃いのマグカップで飲もうか」と言った。今度は臨也から静雄の手を握り、静雄も頷きながら兄の白く細い手を握りしめ白い息を吐き出した。そこには安堵と不安と悔しさが存在したが、空気に溶けて行く。

親はこの事を知らなかった。まさか自分が腹を痛めて生んだ子供が、兄弟愛を通り越していると想像できただろうか。出来る筈がない。兄は親に知られる事も嫌がった。静雄もそれで良いと頷いたのだが、やり切れない何かはいつも静雄を付き纏う。公衆の面前で手を繋ぐことなどこれからありもしないのだ。いけないことだと分かっているが、二人はとてもお互いが好きだった。家の前で兄に「好きだ、」と零すと兄はまず周りを見渡して「俺も、」と返答した。今すぐにでも、この場所で抱き締めてしまいたい。他人で、男同士では無くて男女で交際をしていたら抱き締められただろうか。兄の細い体を切なげに見つめながら、静雄は言った。

「もう、やめようぜ。こんなの」

兄は振り返ると眉を下げて、そうだね、と笑った。その反応に傷ついたのは他でもなく言った当本人で。静雄は「嘘だ」と言うと兄も「嘘だよ」と返した。そんな簡単に、自分達の恋を終わらせる事は臨也にも静雄にも出来ない。






歪な恋愛は、まだ幸福である事を兄弟は痛感した。不幸はすぐそこまで迫っている事も。

二律背反

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