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▽▲ 吸血鬼1



今日に絶望し明日を呼ぶような、不可解で死んだ魚の様な瞳をしている男を見た。薄気味悪いと言わんばかりの霊的な気力を感じて家康は体を震わせ、額に汗を滲ませながら強く拳を握り締める。
「今日も、元気そうで何よりだ」
目の前の男は睥睨を増すばかりの瞳を此方に向けて、口元から鮮血を垂れ流している。先程思い切り吸われていた血が腕から流れ出て家康は困却したように眉を下げた。

吸血鬼と同居をするには、どうも血が足りない。


致死量の愛と血液 1


家康は家族に恵まれ程々に裕福な家庭に育ち、天真爛漫で元気で褒める箇所が多過ぎて悪い所が見あたらないと評価されるほど、才能と努力と可能性に満ち溢れた青年だった。そんな彼を誰もが認め崇拝し時には羨望し彼の良さを知ろうと近づいて来る者も少なくないというのに、そんな家康は毎日似たような繰り返しの日々を送ってるなと感じた瞬間、家康は何を思ったのか愛されてきた家族の反対を押し切って都会へ出向いた。獣のような強烈なネオンの光は家康の目には眩いものなのだと印象付けた。

都会の喧騒に慣れて来た頃、マンションの下に変わった髪色をした青年が横たわっていて善人でもある家康は、一度息を飲み気温で階段を掛け足で降りて行く。マンションの下に着き青年が居た場所に無かと痕跡は跡形も無く消えていて、家康は自分の瞳を疑った。けれど、その疑惑はすぐに解消させる結果になったのだが。目の前の電柱の一番上に、先程見えた青年が此方を見下している。青年は重たい口を開いて今だ目を見開く家康に言った。
「貴様、人間か」
氷の様な冷えた目と声色に家康は何も言えず唾を飲み込み、高い位置に居る青年よりも、青年の背中の禍禍しい奇怪の黒い羽に魅せられていた。青年の端整な顔立ちとその羽はとてもバランスが良くとても美しいのだ。
「見られたからには死んでもらうぞ」
羽をはためかせて此方に向かい物凄い速さで飛んでくる。家康は殺気に肩を震わしたが次の瞬間にはその青年が地に倒れている姿だった。一つ青年に間違いがあるとするならば、殺そうとした相手がインターハイのボクシングウェルター級不敗者である事と、剣道有段者である事だろう。青年の腹部に重い拳を下から上に突き上げ、細身の体の青年は衝撃に耐えきれず気を失ってしまった。青年の体は非常に薄くそれでいて血色が悪い。何日も食事をしていないと取れる青年が気絶する中、家康は頭を掻きながら小さく呟いた。
「・・・どうしよう・・・」

家康は青年を負んぶしながらエレベーターに乗っている。先程の衝撃からだろうか禍禍しい黒い羽は消えており運びやすくなったなと感じるだけで特に追求はしないようにしていた。エレベーターのアナウンスが鳴り降りるとマンションの一番奥の自分の部屋へ向かう。重くない青年の体を心配しながら部屋に着くと自分の堅いベッドに横にさせ、布団をゆっくりかける。いつ起きてもいいようにベランダには医療品を置き、起きるまで何をしようかとソファに腰掛けた。家康は何か作るかと立ち上がり台所に向かい今の時間は昼を少し過ぎていた。





(なんだこれはっっっ!!!)屋外に居た筈の自分が天井の見える部屋におり、窓から逃げようと考えたが生憎この部屋には窓が無い。先刻自分が見知らぬ男に存在を見付かり殺そうとしたが失敗した事を明確に思い出し(殺す殺す殺す殺す殺す)と物騒な事を考えていた。正し自分に掛けらているこの温かい布を触りながら(これはなんだ、布にしては大き過ぎるぞ・・・)と布団で遊んでいると物音がして扉の方に顔を向けると、笑いを堪えたように下唇を噛み締めて涙ながらに此方を見てくる先程の男。屈辱を味合わせてやろうと怒りを覚えた後、男は此方を見て腹を抱えているのを判断し布で遊んでいたのを思い出して顔を赤くした。
「貴様、み、見たのか!?」
「いや、ふっ、・・・見るつもりは、・・・なかっ、無かったんだが」
「わ、笑うな!」
そう言った尚も男は笑いを止めず目には涙を溜めている。自分は羞恥と屈辱に埋もれ堅い布団から飛び出し男を殴ろうと腕を振り上げると、いとも簡単に受け止めた。
「その・・・悪いがお前よりはワシの方が強いぞ」
「だから何だ!私は貴様を殴らないと気が済まないっっ!」
「いや殴るのは何時でも構わん!」
「なら今殴らせろォっ!」
迫りくる拳を全て受け止めながら男は冷や汗を流している。青年は拳を突き出すのを止めない。
「いや今はっ」
「容赦はせんぞ―――ッ!!?」
家康が構えの防御を取った時に、青年が崩れ堕ちるように地に足を着いた。青年は目を見開き今だ困惑している様子で腹部を抑える。男は冷や汗を握り安堵と不安の溜息を同時に吐きだした。
「ほら、言わんこっちゃない。さっきワシのアッパーで強打したろう、だからワシは治療をしにきたのだ」
「・・・・・」
「腹を見せろ、治療する」
後ろに置いていた医療品を手に持ち青年の肩に触れると青年は唇を吊り上げた。男のその腕を掴み自分の元へ引き寄せるとまるで悪巧みを考えた子供の様な声色で囁く。


「私には人間の治療など必要ない、貴様の血で十分だ」



それからは目を疑うような光景が家康の目に飛び込んだ。青年が自分の首元に近づき血管のすぐ傍に噛みつく。肉を裂かれる痛みは擦り傷の様な単純な物ではなく筋肉を突き破られるような激痛である。家康は痛みに顔を歪め青年を引き離そうとしたが態勢からか突き飛ばせず、青年は追い打ちを掛けるように溢れ出る血液を吸った。じゅる、と衣服に濡れる血に家康は拳を握りしめた。体の力を抜き取られ段々朧げになっていく視界で血を吸われる音だけが耳に届く。家康は吸血鬼だ、と脳内の縁にそう浮かんだ。意識が薄れそうになる中青年は家康を首から鋭利な歯を抜き取り、真っ赤な血で汚れている口元を拭くと虚ろな目の家康に向かって言った。
「健康体の血はやはり良いな」
「痛いのは最初だけだ、後は麻酔の様なものだと思えばいい」
「正し、血を吸われる度にそうなる。慣れたら別だが」
まるで他人事のようにこちらを見下している男に家康は拳を握り締めたが、思うように力が入らない。そんな家康を笑うかのように青年はこちらを睨みつけた。


「驚いたな、まさかまだ人間なのか」


青年は一瞬目を見開く。家康が薄れゆく視界の中最後に見えたのは仮面のように冷たい笑みだった。

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