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きみはつめたい、と臨也はソファに寄りかかりながらそう言った。お茶を含んだお陰か喉は渇いていなかったが臨也の存在に持っていたコップを落としそうになって、臨也の言葉に何も言わないまま「なんでいるのさ、」と自分の疑問を持ち掛けると、臨也は眉目秀麗と言われる綺麗な顔を無邪気に笑わせて、気が向いたからかな、と硝子板の上に置かれていたチョコレイトのお菓子の紙包みを開けた。
臨也が新羅の家を訪ねるのは本当に怪我をした時か、気分かのどっちかだった。けれど饒舌な口は今日はあまり喋らず新羅は何処かでのどかだなあと思う。明確な理由は聞かなかったが今日の臨也は落ち込んでいる。けれどこいつに何度も恨めしい事をされたから心配の声なんて、掛けてやらないが。「ああ、今日外冷え込んでいたからさ、温かいものでも淹れてあげようか」と言うと臨也はこちらを向いて短い黒の髪を靡かせて「ロイヤルミルクティーね」と告げた。めんどくせえ!と叫びそうになった口を押さえて、マグカップを取りに行こうとした時臨也は新羅の腕を掴んで、「新羅が持ってるコップでいいよ」と告げてその手を放した。「は、待ってこれ耐熱じゃな」「それがいい」臨也は新羅を一度程睨むと新羅は訳が分からず、「割れても知らないよ」と呆れながら言うと「割れた時に怪我したら新羅の血は頂戴ね」と呑気に言って見せた。新羅は溜息を吐きながらキッチンに向かい、ミルクを温める為に容器に注ぎガスコンロに火を付ける。数分間は暇だからいつもセルティの事を思い出して、緩む口を閉じた。いつもならふざけてこちらに来る臨也が今日は大人しくソファで待っている。やっぱりおかしい、と思うと焼かんが煙を吹き始め火を止め、コップを水で濯いでから注いだ。案の定罅が出来て来て新羅は急いで臨也の方へ持っていこうとした時、コップは破壊を強いられて硝子の破片が目に飛び込んで来る。しかし自分は眼鏡をしている為にそれは免れて、御盆から垂れるそのミルクティーを臨也は嬉しそうな顔をしながら手で掬い飲みほした。臨也は御盆を机に置いてにこやかな笑みを崩さないまま新羅の眼鏡を取り「眼鏡がなかったら刺さってたね」と言う。新羅は自分の背筋が凍るのを感じていた。余りにも柔らかい笑みだから言っている言動が怖く恐ろしく思え、臨也は新羅の手を取ってきみはつめたい、とまた言った。おかしい。
次の日、臨也に記憶は残っていなかった。突然の事らしく病院側もやる手がないのか首を振っている。
新羅は全人類を愛する臨也が一人の人間を愛してしまったから忘れたのだ、と何処か冷静に考えていた。嫌な罪悪感が身に襲ってきて、病室で空を見る臨也に目を奪われている。妙な喪失感がさっきから抜けない。病室は異様なほど寒く、自分の手が冷えて行く事を確信していた。
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