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帝臨


愉快だ、と帝人は目の前の光景嗤った。ゆらゆらと揺れる水の青に浮かぶそれはもう冷たくなってしまっただろうか。帝人はプールサイドをぐるぐると回りながらプールに浮かぶそれを一点に見つめた。死んじゃったんですかと問い掛けてもそれは動くことなく水面に浮かぶ。帝人は興味がなさそうに空を仰ぐと、それはプールの水底のコンクリートに足を着いて大きく息を吸った。「おはようございます、臨也さん」「おはよう帝人くん」何事も無かったように前髪を掻き揚げる人間は、黒い髪を濡らしながら数分前の帝人のように「今回ばかりは死んだかと思ったよ」と、自分自身を嗤った。二人は馬鹿馬鹿しいと目を会わせながら互いに向ける冷めた目を細め、笑う。今度は愉快でも自嘲でもなく憎悪が込められていた。

帝人は臨也が嫌いだった。そのまま水底に沈んでしまえばいいのにと本気で思うほど臨也を殺したくて仕方がなかった。正し、自分が都合悪くならない方法で。勝手にくたばってくれればいいのだ。臨也は帝人が好きだった。その手で普通に自分の首を締め上げ息を止め殺して欲しいと思う程、帝人に殺されたくて仕方がなかった。正し、そこには愛等存在せず、自分の興味本位で死を味わいたかった。互いに嫌悪している訳ではない。人生を謳歌しようとしている童顔な男と人生に飽きてしまった自殺志願者は非常に息が合った。だから二人で殺し殺される方法も考えた。けれど、自殺志願者は死ぬときになると億劫になる。それを知っていた帝人は臨也を鼻で嘲笑った。

最初は高いビルの屋上であった。怜悧な臨也は自殺と見せかけるならやはり屋上だろうと提案して、後は足を浮かせる状態で臨也は足を止める。帝人は溜息を吐くとやっぱりやめましょう、と気だるそうに引き返す。
二度目は狡猾な帝人がここは首吊りでしょうとにこにこと提案した。台も紐も用意して後は足を浮かせるだけの時で臨也は足を竦める。帝人は首を振って心底残念だと言わんばかりの顔で、次何にします?と睨んだ。
三度目は臨終をずっと望んでいる臆病な臨也が提案した。それが今日の水死であり、学生の時泳いでいた学校のプールで死のうと顔を付けあと一歩の所で顔を上げた。帝人はどんどん自分が飽きていることを自覚して頭を抱える。臨也には焦燥さえ込み上げていた。




水死し損ねた臨也は次の日帝人と会う約束をした。臨也はいい会社に勤め副業で情報屋をやり、帝人は学生を楽しむ裏で臨也を殺す為に日々を過ごす。そして今日橙色の日が沈むころに二人は落ち合った。戯言を少々交わし臨也は「今まで付き合わせてごめんねぇ」と皮肉気に言うと、「別にいいですよ。次は何にします?」その問いに臨也はデスクに置かれた水を手に取ると「これで最後だから」と言って、その水を喉を潤す様に飲み干す。帝人には嫌な汗が流れた。まさか、という予感は的中し臨也は安らかな顔をして床に倒れ伏す。四度目は毒薬であった。

帝人は脈が通って無い死体に駆け寄ると、緩む涙腺で死体を見下した。楽しんでいたのかもしれない。この奇妙な単語で繋がっていたこの関係を。











窓から夕日が差し込む部屋で慟哭する帝人は、臨也の死を受け止められなかった。生き返ることを望んでも、徒夢となり夕焼けに溶けて行く。

ネクローシスはアフターワールドへ続く

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