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リクエスト


静雄には、一切の猶予と余裕が与えられなかった。目の前でスナックを頬張る姿に少しの苛立ちを感じながら始まったばかりの、『はぐれ刑事純情派』をけらけらと笑いながら見ている臨也の頭を撫でて乱暴にスナックを奪って口の中へ流し込み、呆然とこちらを見ている臨也は口を少し尖らせて眉を顰めた。
「何するの」
ソファに座っている臨也は机に置かれていたコーヒーを口に流し込み、静雄から然程胃に飲み込まれたであろうスナックを奪い取って、タイトルロゴだけのオープニングを見つめる態勢になって、静雄は等々何もすることが無くなった。


臨也と恋人になったのは、一ヶ月と13日前の事で薄暗い寒い夜に、水滴が多く含まれて白くなったその息で自分の気持ちを告げたのがこうなるきっかけだった。夜になると臨也はより一層仕事疲れで眠たそうな目を擦って、駅で向かい合っていた時に静雄は途轍もないほど自信が無かったのだが自分の思いを伝えた。愛しているだとかそんな可愛いものではなく、純粋に好きになったと飾らない言葉で。ひゅ、と息を呑むのが聞こえてどんどん顔を赤くしながら、小さくそれも自分の耳に届けばいいぐらいのか細い声で俺も、と声を出してすぐさま駅に消えていく背中を見つめて、静雄は少し沈黙してから現実を理解したのだった。


そんな経緯があったものの、最近の悩みの種と言えば臨也と全然進展しない事だった。進展したとしても静雄に耐えられる理性があるかと聞かれれば、まず無理だ。男は本能で生きているしそういう場合で理性が勝つ筈等有り得ない。丁度終盤に差し掛かり物語のキーキャラクターが登場した所で、臨也は興味がなさそうに立ち上がった。
「見なくていいのか?」
そう尋ねた静雄に、臨也は肩を竦めて細い腕をテレビの方に伸ばし、こいつが犯人、とそれはそれは面白くなさそうに言って欠伸をした。
「こんなタイミングで出て来るかい?最初に出てきたら考えるかもしれないけど、途中からなんて怪し過ぎるし、アリバイは全くないしね」
なんてぶっきら棒に答えるとコーヒーを入れに行きたいのか、台所へ向かう。その背中を見つめながら静雄は頭を抱えるようにソファに座った。
数分後コーヒーを入れて満足そうにした臨也は、コーヒーを手に持ったまま静雄の横に座ると凭れかかった。勿論この時静雄は胸が尋常じゃない程高鳴っている。それを知っているのか否か、臨也は思い出したようにコーヒーを啜りながら言葉を放る。
「今日、泊まるから」
「おう。・・・・・・・・!?へ?、なっ、えっ、あ!?」
静雄の動揺に臨也は吹き出しながら笑うとぷるぷると柔らかそうな綺麗な唇を艶やかに動かした。その言葉を聞いて静雄は(反則だろっ・・・!)と顔を赤くした。ドラマはエンドロールを流している。  「ねえ、いいでしょ?」、。


  ・
     ・

同じ部屋に臨也が居る事もあるが男である故にそういうことも、期待しなくはないのだ。静かな寝息を立てている臨也の方を向いて静雄は目を細め上向けに態勢を整えて瞼を閉じる。その時、静雄のベッドが軽快な音で軋み静雄は薄っすらと目を開けると、人影に目を見開いた。
「シズちゃん・・・・」
艶めかしさを含んだ声で静雄の名前を呼ぶ臨也は、どこか泣きだしそうな顔をして静雄の上に馬乗りをしている。
「臨也、」
これからどうなるなんて考えてもいないが、そういうことになればいいなと軽い気持ちで考えながら臨也の方に触れると払いのけられ、素っ頓狂な声を上げた静雄を尻目に臨也は低音の音を出して触ろうとした静雄の右手を掴んだ。
「触んな」
静雄はもう訳が分からず空中にクエスチョンマークを浮かべる。臨也はその反応が楽しいかのように少し何もせずにいると、掴んでいた右手を自分の唇へ寄せて目を細めて唇を吊り上げた。

「ねえ、キスして」

静雄はその一言で、臨也の後頭部を掴みすぐに起き上り口付けた。角度を変えながら口付すると息を吸う為に薄く開いたその口に、舌を入れて最初は抵抗していた舌もどんどん交わって行く。
何分そうしていただろうか、愛を確かめ合う様にキスをしあう二人はとても滑稽で馬鹿らしく、それと同時に美しくもあった。唇を離すと潤んでいる臨也の瞳にぎらぎらと輝く静雄の瞳が映り、小さく呟くように言った。
「やっとキスしてくれた」
恋人になっても尚向かって来なかった静雄に不安を抱いていたのは、臨也も同じである。それを聞くと静雄は情けなさそうに眉を下げて臨也のシャツに手を伸ばそうとした時に、先程と同じように払いのけた。
「触らないでって言ったろ」
少し不機嫌気味に臨也は言い何事も無かったように布団に潜って横になった。残された静雄は何度か瞬きを繰り返し布団を被ったものの、寝れる筈が無く。


静雄は恋人に対してまるで子供のように、余裕が無かった。

lovin' you

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