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「おい、手前なんで電話に出ねぇんだよ」
顔は不貞腐れ口を尖らす男―――平和島静雄は向かって目の前の男―――折原臨也にそう呟いた。臨也はその言葉に顔を青ざめさせながら昨日の事を鮮明に思い出した。
§§§
朝から鳴り響く携帯の着信音。それらは電話であったりメールであったりと様々だが一括に纏められた着信音は、永遠と鳴り響く。現在昼の一時過ぎ、二分置きにじりりりとバイブの音に溜息を吐いた。
臨也は振動を齎す携帯を操作しながら、平和島静雄を書かれたアドレスに深い嫌悪を覚えながらサイレントモードにする。メール24件は見るのも容易では無く、内容は全て見ないまま携帯を閉じた。サイレントモードにしてからというものの目障り光る携帯も耳障りな音も無くなり静寂に包まれる。これが朝から欲しくて堪らなかったのだ。もうこの携帯は開く事は無いだろうとコートのポケットに詰め込んだ。
夜はいつも通りの誰かの情報を売り誰かを陥れ誰かを観察していたが、ポケットにある携帯の事が気になって仕方ない。恐怖と言うモノが携帯から出て自分を懲らしめてるような気がしてならない。荷が重いとベッドに倒れ込んだのは、倒れ込んだ所までなら覚えている。
§§§
昨日の事を思い出すと同時に、家のハンガーに掛けられたコートの中に存在する携帯が無駄に怖くなった。静雄の言葉に臨也はコートのポケットから携帯を取り出す。何故か当たり前のように自分の家に居座る男を睨みつつ、臨也携帯をスライドさせた。明るくライトを灯しだすその中に、書かれていた数字は見るに堪えなられないものであった。
不在着信 63件 メール 59件
と書かれた数字である。明らかに尋常じゃない程の桁数だがどの履歴を見渡しても差出人は目の前の男。
「なぁ、何で出なかったんだよ」
出れるか!
臨也は憎々しげに悪態を吐いた。――――――当たり前だ。自分は平和島静雄が嫌いで嫌いで仕方ないのに、この男ときたら毎日毎日同じことを繰り返す。酷い時には無言電話だってあるくらいだ。日に日にエスカレートしていく行為は流石の自分でさえ呆れたほどだ。
怒りと同時に臨也は静雄の胸倉を勢いよく掴む。そうするとばさばさと落ちて来る紙――――通称写真。裏返っていたのもあったが殆どは表向きに広がった。その写真の内容は、全て、
自分の私生活の、写真。
着替え写真は当たり前のように、寝顔も携帯を開く瞬間もソファに転がる瞬間も、全部が写真の中に映っていた。昨日の事も全て撮られている。臨也は静雄を甘く見ていたのかも知れない、そう感じた瞬間である。同時に恐怖や羞恥やらが心の中を一杯に満たして行く。突然の事に臨也は頭が回らない。
「あー見られたか・・・。お、これこれ。いいだろ、可愛くね」
静雄は同意を求めるように首を傾げた。その動きや言葉を聞いて臨也は泣きだしてしまいそうになる。
いや、もう泣いてしまったか。
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