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シズイザ




鎖は首や足には枷のように巻きついていて身動きが取れない。足に強く巻かれた鎖のせいで肉が抉られてしまいそうだ。
静雄は何故自分がこんな状況になったのか、よく覚えていない。頭を強く打ったのは分かるが鎖に繋がれてるのがイマイチ理解できない。もしくは、理解したくなかった。自分の中にある記憶の蓋をこじ開けてはいけないような気がしているからだ。しかし、そんなことはお構いなしに静雄は現実に戻された。
「やあやあシズちゃん気分はどう?お腹減った?トイレに行きたい?あはは、それともお風呂?」
「てめぇ・・・臨也ッ・・・!」
一瞬で自分を捉えた犯人が静雄は理解できた。例え理解してもこの状況は変わらないのだが、突然現れた目の前の大嫌いな男が愉快そうに目を細めた。
「やだなぁシズちゃん。俺はその返答を望んでないよ」
臨也が急に真顔になると静雄の全身に鈍い痛みが襲う。びりびりとなる電気の音を耳に聞きながら静雄は臨也の方を見ると、臨也が手にはリモコンの様な黒い物体が存在していた。
「俺ね、すごい頑張ったんだよ?鎖も太いのを作ってもらったし電気に弱い素材にしてもらった。ねぇ俺偉いでしょ」
そう無邪気に笑いながら臨也は手元のレバーを強に上げて行く。スタンガンの威力はもうとっくに通り越していた。電気は普通の人間が耐えられない、もしくは焼け焦げるような強力な電圧。それに耐えれるのは目の前の男のモチベーションだろう。臨也はまた愉快そうに目を細めながら電圧を最強まであげて満足したように部屋の隅に放り投げた。
「痛い?痛くない?どっちなのかなぁ、やっぱりシズちゃんでも痛いのかな?どう?」
「うるっせぇッ、蛙見てぇなその口を閉じろッ!」
静雄は全身に来る鈍い痛みに耐えながら、その脳でしっかりと考える。臨也の状態ははっきり言って正常ではないだろう。壊れたように笑うのだ。その姿は実に痛々しく、薄気味が悪い。
「てめッ、なんでこんな事しやがるッ」
不規則な電圧は時々来る激しい電気に言葉は遮られてしまった。
「なんで?馬鹿だなぁシズちゃん。そんなのも分からないの。俺がこんなことをやるのはね、シズちゃんが大好きだからだよ?好きで好きで好きで好きで好きで好きでだから俺は自分の所に居ないシズちゃんが許せない。絶対耐えられないからね」
鉄鋼で囲まれたその場所に臨也の声は響くように広がって行った。静雄はその言葉に驚きを隠せなかったが、同時に自分の中にある嫌悪がより酷くより繊細に彩られる。

ぎちり、と鎖を噛み砕く音が響いた。それは全てを始めとする合図に他ならなく、俺はその時ようやく目の前の男に舌を打った。






「なぁ、臨也さんよ。うちの静雄を知らねぇか」
トムは眉を歪めながら、通りすがりの臨也に問いかける。臨也は突然の事に驚きはしたもののすぐに笑顔で返した。
「知りませんよ、あんな奴」
にこにこと笑って言うその言葉にトムは背中にぞくりと何かが走るのが分かる。十中八九こいつのせいだろうとトムは考えなくとも感覚で理解した。それと同時に薄気味悪さを纏った男にトムは再度問いかける事も出来ず臨也が池袋の街に消えて行くのをただ呆然と眺める事しかできなかった。
―――――静雄は、どうなったのだろう。生きているだろうか。折角取り立て業になれてきたってのによ、酷過ぎるだろ。
トムは頭を抱える事になって後ろに居る心配そうな目をしたヴァローナの頭を撫でる。今はそれしか出来なかった。





「シズちゃんシズちゃん。今日ね、会ったよ君の先輩と後輩に。先輩は良い人そうだなったな」
「!! 手前トムさんやヴァローナに何かしたらただじゃすまねぇッ」
「・・・・・・・・・そんなにあの二人が大切?ふーん、ムカつくね」
「なっ」
「何回も言ってるけどさ、俺シズちゃんが好きなんだよ?シズちゃんの口から他の人の名前なんて出てきてほしくない。あははは、シズちゃん、ちょっと気絶しててよ」
臨也がそう言うと鉄の棒を静雄の頭に上に振り下ろした。気絶した静雄を見て臨也はまた、笑いが込み上げ、それと同時に頬を伝う冷たい透明な血液が流れてしまった。
臨也は人間が好きだ。しかし、人間と言う一つの種類では無く個々を好きになった時点で臨也の常識と感情も理性も何処かにいってしまった。壊れた様に笑うのも狂ったように目を細めるのも、全て。混乱していただけなのかも知れない。それでも、臨也にとって静雄は大きい存在であった。だからこそ鎖に繋いで身動きを取らさないようにしたのも、毎日毎日池袋の事を報告するのも全部静雄を好きだからだ。静雄の事で眉を下げる人達を見て、臨也は自分が惨めになる。横たわる静雄の姿を眺めながら、臨也は眉を下げた。口から小さくごめんねと何度も何度も呟いて臨也は静雄の枷を外す。




朝起きると枷が無かった。鈍い痛みも来ない。何時もなら頑丈に閉ざされた扉が開いていて静雄は確信した。今なら出れる、と。
ここに来て何日経過したのだろうか。静雄は呟いく、臨也が最も聞きたいその言葉を。
























「こんな事、しなくても俺も手前が好きだった」

だからこの環境の中で日々を耐えられたのだから。

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