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おかり!

・この話は、アルカナ企画の息子さんたちをお借りした小説です
・同性愛表現があるのでご注意ください(カップリングは塔×皇帝です)
・妄想の塊で、世界観の「街のギルド」を主としそれ以外にも捏造してしまっています

以上の注意書きをお読みになって、無理だ!と思った方はお戻りください。
いける!という方は、こちらから。  →■




クラーゼは存外、疲れの色を滲ませていた。目の下の隈は、日を追うに連れて濃くなっており、出会ったばかりのふっくらとした頬は、肉を欲しがる餓えた野良犬のように痩せこけて、見るからに痛々しい。スヴェンは細くなったクラーゼの腰に視線を下げる。ただただ細くなっている腰は、筋肉も落ちているようで、骨が浮き彫りになっている。
ここまで彼を追い詰めたのは、過度の仕事によるものであった。自分達のギルドは自由奔放な人達が多いので、簡単な依頼は押し付け合うのだ。その為、何人かに依頼が集中した結果、クラーゼのように睡眠や食事が欠如してしまい、疲労を濃くする。
スヴェンは、部屋で依頼を確認するクラーゼを見遣り静かに近寄り、肩に手を置いた。ともすれば、慌てて振り返ったクラーゼは、スヴェンを見て吃驚した顔をする。
「あ、スヴェン。なんだ、帰って来てたのか」
「…早く、終わったもので」
とは言っても、スヴェンがギルドを出たのは一時間前である。それに加えて、スヴェンやヴィクトル、イクセルのように腕に自信があり、街からも評判のいい三人は、それこそ難易度が高い依頼を任される。
その為、時間が掛かると踏んでいたクラーゼは、目元を細くして口角を上げ、小さく「おつかれ」と口にした。
「じゃ、俺も依頼あっから、行って来るわ」
そう行って、スヴェンの横をすり抜けたクラーゼの肘を掴んだのは、紛れもなく、無表情を崩さないスヴェンであった。
「ん?」
「…最近、休んでないんでしょう。少しくらい教養をとった方が、間違いなく依頼をこなせる筈ですが」
スヴェンは、髪を揺らして、覗き見る瞳を、クラーゼの視線を交合わせる。クラーゼは、あー、と苦虫を噛み潰した、罰の悪そうな顔をした。
「気付いてたの?」
「ええ、皆の耳に貴方の失敗は届いています」
「あー、まじか、」
歯切れの悪い声を出したクラーゼは、俯く。それなりに疲労を周りに見せないように気を使っていたのも、疲労と結びついているのだろう。
少し、スヴェンの言葉に傷ついたのか眉を顰めた。スヴェンは、細い手首を掴んでいた手を離すと、クラーゼはふらふらと床を踏み直す。体も疲弊を相当溜めこんでいるが、その精神状態も危うい気がした。
それは、当たり前である。依頼を失敗する事は、クライアントに罵詈雑言を言われるという事だ。
そして、その原因が自分達の甘えから来るものなので、皆口々にクラーゼを注意する事が出来ないのだ。その点、淡々と仕事をこなしていたスヴェンが、皆を代表したとも思われる。
「お前たちの分も、俺が頑張る必要がある」
それが例えお前たちの身勝手な甘えだとしても。そうクラーゼは言い放った。スヴェンは少し、呆気に取られて口を噤む。クラーゼは街の為も考えているが、その根底にあるものは、自分達への見せしめ。疲労困憊しようが、倒れようが、皆の見本になろうとしているのだ。
「じゃあ、そういう事だから。俺行くわ」
クラーゼはそのまま、踵を返し走り去って行く。スヴェンはそれを見ながら、直ぐに感した。今夜でも、彼は倒れるだろう。しかし、彼の手首を掴んで引くには、余りにも自分が、経験や年齢が幼すぎた。

ただ、今彼を制止している方が良いということは、考えなくとも理解できたのだが。



その夜、クラーゼはギルドの本部に着いた瞬間に倒れた。限界だった。皆は大慌ての様で、ただでさえ生意気で人の言う事を聞かないリノが、そこそこの依頼をすぐに終わらせ、クラーゼの眠る寝室に息を切らして駆け寄るほどだ。
クラーゼの他にも、何人か依頼を沢山任される人居るが、彼の様に全てを受け止めたのは例外中の例外である。依頼に出ていないメンバー達は、息を呑み込んだ。痩せた身体が嫌でも目に映り、歯を噛み締めて漸く息を吐ける。
皆が心配に心配を重ねる中、壁に凭れかかって、スヴェンは冷静に考察をし始める。その中に、あの時止めていれば、という後悔なんてある事はなかったが。スヴェンは酷く冷然とした瞳で、脂汗を滲ませる布団で喚く彼を、じぃと眺める。
―――――どちらかと言えば。
スヴェンはゆっくりと目を伏せ思考に沈む。どちらかと言えば、ここまで溜めこみぶっ倒れるまで体調管理を出来なかった方が悪い。スヴェンの正直な思惟である。皆はクラーゼの体力の倒壊をさせたのは自分達だと思うのだろう。それこそが、その罪悪感こそが、計算の内だと言うのなら。
(なんて、恐ろしい男、)
それとも、自分の所為だろうか。沈んでいた思考を浮かび上がらせると、その選択肢も合ったのだと理解する。自分は、極度の不運者だ。身体能力を極限までに鍛えた上で、戦場の様な所に向かっている。なので、小さい不幸は、恐怖がる事はない。だが、この男は、自分が居た所為でここまで陥ったのではないのか。
そう考えて、スヴェンは頭を動かすのを止めた。馬鹿馬鹿しい上に、被害妄想も甚だしい。
リノの頬に伝う涙を見ながら、一人萎える気持ちを隠して、さっさと寝室を後にした。


※※※


それから翌日、クラーゼは意識を覚醒させたが、すぐに眠りに入って行ったと言う。ほぼ寝ずに仕事をこなして来たのだろう、彼の身体は安静を求めていた。
漸く目が覚めたのは、それから二日たった数日後である。彼らしいのは開口一番が、はらへったー、という呑気な言葉だろうが。
自分自身が、少し心が軽くなったのを感じ取れた。その理由が良く分からず、小首を傾げて居れば、ゆっくりと足を踏みながらクラーゼが歩いて来る。ふいに目線を上げれば、クラーゼと瞳が交り合う。「ごめん」と申し訳なさそうに言うクラーゼに、スヴェンは小さく「別に」と言った。
「こんな朝早くから起きて、武器の手入れ?」
「ええ、まあ」
そんなとこです、と言いたかったが、自分は武器と言う武器を持っていない。その嘘を見抜いたのかは知らないが、それ以上クラーゼが追求する事はなく、また今日が始まった。
「腹減ったー」
そうぼつぼつと独り言を口にするクラーゼを見遣りながら、クラーゼはソファに凭れかかる。そのまま、瞼が重くなるのを感じて、スヴェンは寝息を立てた。


スヴェンが寝ている事に気付いたのは、ふと後ろを振り返ったからだった。成人前の、筋張った頬骨や、まだ荒れる事の無い肌を目を細めて眺める。青年の体つきは、自分のを遥かに超え、筋肉が付いている。クラーゼは焼いている途中だった肉が入ったフライパンを確認し、火を止めて寝室に向かって行く。
そして数分後、持って来たのは薄い毛布であり、起こさない様に静かに毛布を掛ける。そうしてまだ赤色が残っている肉を焼き、食事をする事にした。



うっすらと目を開けたスヴェンは、周りを見渡して、上半身から力無くずれ下がった布団に、意識が行く。誰が掛けてくれたのか分からなかったが、何となく誰かは思い浮かぶ。すれば、依頼から返ったであろうリノが、横のソファに座る。
「クラーゼ起きたんだってね」
「…はい」
「よかったよ、ほんと心配した。スヴェンは、ど?心配した?」
「…別に。…ただ、起きてくれて、よかったです」
リノはそう言い放ったスヴェンを見て、目をぱちくりとさせた。素直に「へえ」と言う言葉が出てしまうぐらいには、その返答が駄目な物だったのかもしれない。懐疑の目を向ける自分より足して一歳差ぐらいの、未だ若いスヴェンは、リノの前で漸く年相応なる表情を見せたからだった。
「スヴェン」
リノが小さく呟けば、天井を見ていた彼が此方を見る。悪戯をした後のような意地汚い顔を見せ、なんですか、と何にも感心や興味が行かない彼が、不思議そうに伏し目た。
「クラーゼがもしあのまま死んでたらどうする?」
その問いに、スヴェンは落胆や呆れ似た思いを宿して小さく、二酸化炭素を、ふっと身体から吐き出した。リノの碧眼の瞳が薄っすらと開かれる。



そうですね―――――まず手始めに、あなた達を、皆殺しですかねぇ。



二〇一ニ 弥生二日
案外、クラーゼさんが倒れた責任であるギルドの面々に、スヴェンさん静かに立腹してたら、という妄想。

毬藻

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