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ジロ忍


可笑しいなあ、芥川は含み笑いをしながら、女生徒に囲まれて鼻の下を伸ばしている新任教師を、机に寝そべりながら、開いている窓から廊下を見遣る。女生徒からしてみれば、その顔面の偏差値は高いし、無様に鼻の下を伸ばしていても、嬉しそうにそのチョコレートを受け取ってくれていると思うだろう。それが可笑しくて堪らない芥川はその新任教師を見ながら笑いを堪える様に震える。前の席で「何笑ってんの?」と聞かれたので、さあ、と言いながら腹を抱えた。


「お、ジローやん。まだ帰ってへんの?どないしたん」「先生待ってたんだよ」「なして」「今日の先生の嬉しい顔みたら鍵を郵便ポストに忘れちって」「どんな言い訳やねん」時間的にも無理あるやろ、と不思議そうな顔で言ったツッコミを無視し、芥川は新任教師の間抜けな顔を見ながら「今晩泊めて?」と語尾にハートが付き添うな口調で言うと、新任教師は嫌そうな顔をする。「そんなん女の子に言われたら悩殺やけど男子高校生に言われてもなんも嬉しくないわ」「いいじゃん泊めてよ」「アホか。健全な高校生は家帰ってねんねし」「そう言うガキ扱い止めてくんない?」立ちあがった芥川に、なんややるか?と楽しそうに声を荒げた新任教師を壁に追いやる。「駄目なの?」「アカン、帰り」「・・・ドケチ」「ケチでもええけどなんで舌打ちもされなあかんねん、正論言っとるやろ」その様子は傍から見れば気に入らない新任教師を苛めている生徒、という構図に見受けれるが、二人はお互いに笑みを崩さない。「このままここで犯してやろうか?」「ええけど、そんなんしたら寝取られてやるわ。大人に脅迫するなんて早いで?」「・・・・後で覚えておいてよ、せんせ」「おう分かった、さっさと帰れ」芥川は鞄を手に取り「じゃあね先生」と教室を出ると、その背中を見ながら新任教師は小さく手を振った。



「ジロー芥川ジロー。なんでここに居んねん。簡潔にその理由を説明してみぃ」「だから言ったじゃん、鍵忘れたって」「ほう。じゃあ鞄の中見せて」「それは・・・」「そんな渋れる元気があるんやったら早ぉ家帰れ」新任教師はしっしっと払う様に手を振る。すると、芥川は手に持っていたものを新任教師に見せ付ける様にして出した。「鍵?」「誰ん家の鍵でしょーか」新任教師は顔を青ざめさせると、鞄のポケットを探る。「・・・何時の間にとったん・・・」「さあね、何時でしょ?・・・ねえ先生、このまま俺家に帰って良いの?これないと家に入られないんじゃないの?」「・・・性格悪ッ。・・・しゃーない、はよ鍵開けて」芥川は嬉しそうに立ち上がり、玄関へ足を踏み出した。


「先生、今日の晩御飯なに?」「・・・レトルトしかないねん」芥川はその言葉を聞いて眉を顰め、百歩以上譲る様に長く間を置いて、小さい声で「カレー?」と言った。「ちゃう、うどんや」新任教師はにた、と笑うと芥川はええと言葉を濁す。「文句があるなら家で食べんかいな」その言葉の返答をせず、立ち上がって忍足の背中に凭れかかる。「重い」「なあ先生、先生っていつか結婚すんの?」「結婚?・・・あーそやなあ、夢やったらあるわ」ぐつぐつと沸騰する水を見つつ、芥川は「夢?」と尋ね、ゆっくりと背中に抱きつき腰に手を回した。「嫁さんが同じ教員とかでな、その嫁さんが産休して、生徒に祝福されて、からかわれたいっていう」芥川は腰に回す手を強くして、「その夢、叶えること出来ないね」と言った。新任教師は持っていた菜箸で芥川の額を突くと、「高校生なのに口説くん早いんちゃうん?」「顔を赤くしている先生に言われたくないC」二人は笑い、腰に回す手の力が弱まったのを感じた新任教師は、芥川の頭を撫でた。



11.11.7 如月

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